放射線療法は局所再発を予防する!
放射線療法は高エネルギーX線を乳房に照射して、がん細胞にダメージを与え、その発育を抑える治療法です。手術と同じく局所療法ですので、照射した部位の乳がん細胞にしか効果がありません。
乳房温存術後に放射線療法をすれば、わずかではありますが、生存率も改善します。(信頼度1)。しかし、それ以上に局所再発率は少なくなります。乳房温存術後20年間において、放射線療法を受けなかった場合の局所再発率は39%もありますが、受ければ14%まで減少します(信頼度1)。そのため術後は放射線療法が必要です。
●局所再発率が低い乳がん(腫瘍が小さく、リンパ節転移陰性、50歳以上、ホルモン受容体が陽性)に対して放射線の代わりにタモキシフェンを服用しても局所再発のリスクを放射線療法のように減らすことはできません。
●4分の1切除のように乳房組織をより広く切除すれば、局所再発率は低下します(信頼度3)が、美容的には不満足な結果となります。
●化学療法を用いることによって局所再発率は減少しますが、放射線療法と置き換えられるほどではありません。 よって、たとえ局所再発率が低くても乳房温存術後は術後放射線療法を受けるべきです。
放射線治療を受けるための体位(背臥位にて患側上肢を挙上)がとれない、妊娠しているとき、過去に胸部放射線療法を受けているとき、活動性の膠原病(強皮症、全身性エリテマトーデス)があるときは放射線療法が受けられません(信頼度3)。乳房全摘術を選ぶ方が安全でしょう。
放射線療法には次の2つがあります。
全乳房照射 乳房全体へまんべんなく放射線を照射します。全乳房照射では、部分照射よりも再発率が低くなります(信頼度1)。追加照射(ブースト) 全乳房照射のあとでがんのあった場所に集中して放射線をかけます。 追加照射の意義は確立されていませんが、50歳以下、中でも40歳以下では再発を減らすので実施されることがあります。しかし美容的結果を悪化させる可能性がありますので、そのバランスを考えて治療されます。
●断端陽性(がんが切り口にあったとき)の場合では、追加照射よりも追加切除や全乳房切除術を考えるべきです(信頼度3)。
以下のような合併症が報告されています(信頼度3)が、重い長期合併症は稀です(信頼度3)。
乳房温存手術後の照射ではほとんどの症例において急性期に軽度の放射線性皮膚炎がみられ、しばらくは色素沈着が残る例があります。全身倦怠感を訴えることもあります。また乳房の硬さの増加、発汗や皮脂分泌の低下、乳房痛も照射後2年間ほどはみられます。放射線肺炎は1.0%ですが、抗がん剤を同時に使ったり、広く照射するときは増加します。しばらくして起こるものとして、肋骨骨折1.8%、心膜炎0.4%があります。乳房を全切除した後の照射では照射範囲が広くなり、放射線肺炎は4.1%に増加します。上肢のむくみ(浮腫)は12%、肋骨骨折は1.8%にみられます。心臓障害については最近の照射技術ではあまり問題となりません。
リンパ液の流れが悪くなって腕がむくむ病気です(第12章参照)。リンパ浮腫の予防のため、腋窩郭清をしたときは腋窩への放射線照射をすべきではありません(信頼度3)。放射線照射には発がんの可能性がありますが、乳房温存術後の放射線療法によって、これらが有意に増大するという科学的根拠はありません(信頼度3)。
放射線照射の副作用を最小限にするため、以下のような標準治療法が勧められています。
●週に5回、5週間、計25回。
●かける放射線量は乳房全体に50Gy(グレイ)。追加照射する場合は10Gy。
●開始時期は、抗がん剤を投与しないときは術後8週以内。併用する場合はできれば20~24週以内。
抗がん剤が先の場合、放射線療法が先の場合、同時に行った場合、抗がん剤の途中で放射線療法を行った場合で生存率を比較してみたところ、ほとんど変わりませんでした(信頼度2)。しかし、進行がんでは抗がん剤を先に行うのが一般的です。進行がんによく用いられるアントラサイクリン系の抗がん剤(アドリアマイシンやエピルビシン)を放射線療法と同時に併用すると毒性が増します。