リンパ浮腫は予防が大切!
私たちの身体には細菌感染を防ぐための「リンパ液」と呼ばれるタンパク質に富んだ液体が流れています。腕や乳房からのリンパ液は脇の下にある「腋窩リンパ節」にいったん集められ、細菌やがん細胞を濾過したのち、心臓近くの静脈にそそぎます。 このリンパ液の流れが何らかの原因で傷害されると、リンパ液が溜まってむくみを生じます。これがリンパ浮腫です。乳がんのリンパ浮腫は腋窩部の障害で生じ、腕全体が著しくむくみ、痛みやだるさのほか、皮膚感染症を何度も起こします。
腋窩リンパ節郭清 脇の下のリンパ節には濾過されたがん細胞が転移していることがあるため、乳がんの手術と同時に切除されます(リンパ節の郭清 参照)。すべてのリンパ節を郭清(切除)すると浮腫をきたしやすくなります。レベル1~2の郭清の場合なら6%の確率です。
放射線照射 乳房に対する放射線が脇の下にかかるとリンパ液の流れが悪くなり、4%の確率でリンパ浮腫になります。
リンパ節郭清と放射線 郭清してあるところに放射線がかかれば浮腫の確率は一段と高くなります。完全郭清と照射を併用した場合には36%の確率です。
リンパ節転移 残ったリンパ節にがんの再発が起きたときもリンパ液の流れが傷害されます。
感染症 リンパ液の流れが悪いと細菌感染しやすくなりますが、感染症によって浮腫はますます悪化します。
多くの場合、手術または放射線療法後1年以内に現われますが、忘れた頃に生じることもあります。一時的な場合もあれば、生涯続く場合もあります。
腕の締め付け感、だるさ、腫れがあるときは主治医の診察を受けましょう。主治医は、腕の感染や血栓(「腋窩静脈血栓症」と言います)、脇の下のリンパ節再発がないかを調べます。次に巻き尺で両手の太さを測ります。測る場所は、中指の関節、手首、肘から10㎝手首寄りと15㎝肩寄りの4点です。いずれかの点で2㎝以上の差がある場合、治療が必要です。
病期1 指で押したときにへこみが戻らないとき。治る可能性があります。この段階ではリンパ浮腫の症状が見られないこともあります。
病期2 皮膚が茶色がかって硬くなり、指で押してもへこみません。治る可能性は低くなります。
病期3 乳がん治療後に生じることは稀ですが、皮膚にイボや角質化ができます。
以下のような様々な治療法がありますが、効果が科学的根拠に基づいて証明されているのは圧迫帯の使用だけです。
圧迫帯・サポーター 「圧迫スリーブ」または「圧迫ガーメント」と呼ばれることもあります。腕の全体または一部にぴったりフィットするサポーターで、むくんだ腕に圧迫を加えリンパ液が溜まらないようにします。弾性がなくなれば、数カ月ごとに交換しなければなりません。専門家に特注・調整してもらえれば理想的です。
長期間一貫して着用することが効果的であることが証明されています。
空気圧迫ポンプ 腕を通した袖型の装置に圧縮空気を送ってマッサージし、リンパ液を腕から身体のほうへ押し流します。様々なポンプが市販されています。どのようなポンプを、どのくらいの圧力で、どのくらいの時間用いたら最も効果的なのかはわかっていません。感染や深部静脈塞栓症がある場合は、使用してはいけません。
マッサージ・理学療法 治療士が首から身体も含めたマッサージを行い、リンパ経路の流れを良くすることで腕からの排出を促します。
複合的理学療法 ハンドマッサージに、スキンケア、包帯装着、運動療法および圧迫ガーメントといった複数の治療法を組み合わせます。
それ以外の治療法 手術、利尿薬、レーザー治療、電気刺激、電気神経刺激、寒冷療法、温熱療法。これらの治療法の有効性は明らかでなく、現時点では推奨されていません。
①傷つけない
手術をしたほうの腕にけが、虫刺され、ペットによる引っ掻き傷、やけど、かぶれをしないよう気を付けてください。汚れたものを触るときや土いじりをするときは使い捨てのゴム手袋をしてください。
②注射をしない
腫れのある腕で血圧を測ったり、注射針を刺したりしないでください。点滴、抗がん剤注射はもちろんのこと、予防接種、血液採取、鍼を避けてください。
③化膿させない
皮膚が傷ついたときは、すぐに洗浄して抗生物質を服用し傷を治療してください。もし皮膚が化膿したときはすみやかに医師を受診する必要があります。感染を繰り返す場合、抗生物質の予防的使用が効果的です。いつも抗生物質を携行してください。
④締めつけない
重いカバンやハンドバッグは反対の腕で持つ。 治療した側の腕では、腕時計や指輪は緩やかに着用する。
⑤暖めすぎないサウナ、スチームバスの使用、および浴槽につかるときは注意してください。熱はリンパ浮腫を悪化させます。暑い環境にさらされることにも注意してください。
⑥太りすぎない
理想体重を維持してください。太りすぎはリンパ浮腫の発症をもたらすことがあり、圧迫ガーメントや空気圧迫ポンプの効果を低くすることがあります。
⑦腕を動かす
腕を動かす運動はリンパ浮腫の管理に役立つことがあります。激しい運動は避けるべきであるという医師もいますが、科学的な根拠はありません。一部の専門家は、運動時に圧迫ガーメントを着用するように推奨しています。