■乳がん・乳房再建コラム

乳がん・乳房再建コラム(非浸潤がんの治療)

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

がんという名のついた前がん状態

タイは魚の王様です。日本ではその鮮やかな色と「めでたい」という語感から、祝い事に欠かせない高級魚です。

タイと名がつけば高く売れるものですから、その名にあやかってタイと名のつく魚はアマダイ・イシダイ・キンメダイ・フエフキダイなど日本近海だけでも二百種を超えます。しかしそのうちタイ科に分類されるのは十数種にすぎません。

さて、がんには欠かせない2つの性質があります。浸潤と転移です。浸潤とはしみ込むように周囲の組織に広がること、転移とはリンパ管や静脈の中にがん細胞が入って全身に広がることです。そうしたがんを浸潤がんといいます。

しかしがんと呼ばれているにもかかわらず浸潤も転移もしないものがあります。それが非浸潤がんです。

乳がん以外の原因で亡くなった女性を解剖したところ、なんとその16%に非浸潤性乳がんが発見されました。つまり健康そうな女性でもよく調べれば非浸潤がんが見つかる。調べないでおけば非浸潤がんは死ぬまで気づかれないことがあるということです。

またある患者さんは超音波検査で影があり、針を刺して組織を取ってみたところ非浸潤がんと診断されました。しかし手術を拒否して定期診断だけを受けています。その後も2度針を刺してみましたが、いずれも非浸潤がんで浸潤がんにはならず、いまだに元気です。本人はサメの軟骨が効いたといっていますが、実は、ほうっておいても浸潤がんにならない非浸潤がんもあるのです。

その一方で非浸潤がんを手術で取ると、浸潤がんが見つかることがあります。これは非浸潤がんの一部が浸潤がん化したと考えられます。また非浸潤がんを手術したあとの局所再発の半分は浸潤がんです。こうした事実から、非浸潤がんを放置すると浸潤がんになることがあるといえます。

毎年検診をしていて浸潤がんが見つかった。あとからマンモグラフィを見直してみたら非浸潤がんが以前からあった、ということもあります。

非浸潤がんと診断されて手術をしないのはロシアンルーレットのような危険な賭けです。今きちんと取っておくことが標準治療です。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

非浸潤がんで全摘といわれて

私が研修医のとき、胃潰瘍はなかなか治らず、しばしば命にかかわる病気でした。そのため胃を3分の2から全部取ることが一般的でした。ところが最近は胃潰瘍の薬がよく効くようになり、胃を取ることは少なくなりました。

もし胃がんの疑いがあるといわれたら、命だけでも助かるために全摘もやむをえないと思うでしょう。しかし、たかが胃潰瘍で全摘といわれたら、ほかに治療法がないのか最後までくい下がるはずです。

乳房の非浸潤がんは0期のがんです。浸潤も転移もしないためほぼ100%命にかかわらない、いわば「前がん状態」です。0期といわれてほっとしたのも束の間、全摘といわれて納得できない方は多いはずです。しかしこれには理由があります。

がんは乳管の内側の粘膜(上皮という)にできた小さなポリープから始まります。浸潤がんは一気に乳管の壁を突き破って周囲の組織にしみ込むようにしこりをつくります。

ところが非浸潤がんは乳管の壁を突き破る力がなくて乳管の中を行ったり来たり右往左往します。しこりをつくらないために、気づいたときには乳房全体にアリの巣のように広がっていることが多いのです。

そのため小さく取る乳房温存術では45%に取り残しがあり、将来の局所再発率は最高で60%、放射線をかけても20%と、乳房全摘術の3~6%未満より高率です。しかも局所再発の約50%は浸潤がんで、今度は命にかかわります。

前がん状態で全摘といわれても納得できないでしょうが、今きちんと取っておけば命にかかわらないのですから、広がり方によっては全摘もやむをえません。

ただしほぼ100%生きられるのですから、これからの人生を考えた手術を受けなければなりません。小さな傷から乳頭・乳輪を残して乳腺を全部取り、同時にシリコンできれいに再建をする皮下乳腺全摘・同時再建をお勧めします。

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