■乳がん・乳房再建コラム

乳がん・乳房再建コラム(乳房再建)

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

よりよく生きる

「重要臓器」という言葉があります。生命維持に必要不可欠な臓器のことです。

脳、脊髄、心臓は一部が傷ついても大きな障害となります。
肺や肝臓は大きな臓器なので半分取っても生きていくことはできます。しかし全摘はできません。
食道、胃、大腸、膀胱は全摘できますが、ほかの臓器の一部を移植する再建や、人工肛門、人工膀胱が必要です。
乳房は生命維持に不可欠な臓器ではありません。運動機能にもかかわらないため、これまでは重要臓器扱いされずに取ったら取りっぱなしでした。

確かに「美容」は、ただ生きていくためには不可欠ではありませんが、よりよく生きるためには不可欠です。
乳がんは大きく取っても小さく取っても生存率(寿命)が変わらないということが海外の研究で明らかになってから、日本でも乳房温存療法が乳がん治療の第一選択になりました。

それから20年以上の歳月が流れました。何十万人もの女性が温存療法を受けました。
その後、再発もせず結果に満足している方は数多くいます。その一方で温存とは名ばかりの著しい変形をきたしてしまった方もいます。また何年後かに局所再発して全摘した方もいます。これまでの温存一辺倒の考え方を改める時期がやってきたのです。
無理な温存は避けなければならない。しかし全摘のままはどうしても受け入れられない。そういう方のために、乳房再建が注目されるようになりました。

再建の方法には自分の組織を移植して再建する自家組織法と、シリコン製の人工乳腺を入れるインプラント法があります。
全摘手術と同時に再建するのが一次再建(同時再建)と、あとになってから再建するのが二次再建です。
インプラントや自家組織を用いて、一気に再建するのが一期再建、組織拡張器(エキスパンダー)を入れて2回に分けて再建するのが二期再建(組織拡張法)です。

時期や方法によって呼び方が変わるのです。

乳がん治療、乳房再建 、セカンドオピニオン

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

自家組織かインプラントか

昔は歯が抜けたら入れ歯でしたね。でも最近は歯ぐきの中に金属製の土台を埋めて、土台がしっかりしたら人工の歯を植える方法が盛んに行われています。これを「インプラント法」といいます。

インプラントとは身体に埋め込む医療器具の総称です。心臓のペースメーカーや人工関節、白内障の治療に使う眼内レンズなどもみんなインプラントです。

豊胸や乳房再建のときに胸に入れるシリコン製の人工乳房もインプラントといいます。

外側はシリコン製の袋で、膜が3層構造になっていて、破れにくく漏れにくく、もし破れても中はコヒーシブジェルと呼ばれる「グミ」のようなゼリーで、身体にしみ込みにくいために安全です。

豊胸に使うインプラントはおまんじゅうを薄べったくしたような形(ラウンド)で、軟らかい(ソフトコヒーシブ)のが特徴です。もともとのとがったバストの下に入れるので、とがっている必要はないのです。表面がつるつるしているスムースタイプはマッサージをしないと硬くなるため、最近は表面がざらざらしていて、マッサージしなくても硬くならないテクスチャードタイプが主流です。

再建に使うインプラントはとがって(アナトミカル)いて、腰があります(ハードコヒーシブ)。全摘で平らになってしまった傷あと組織の中に入れるので、とがっていて硬くないときれいな形にならないからです。すべて表面がざらざらしたテクスチャードタイプです。

もしあなたが生まれつきバストが小さくて豊胸をするとしたら、背中やおなかにも傷をつけて自家組織を移植することはあり得ないでしょう。何日間も寝たきりで、何週間も入院するような手術を受けるでしょうか。

同様にもしあなたが乳がん手術を受けても、皮下乳腺全摘術なら、状況は豊胸術と変わりません。やはりシリコンできれいに再建できるでしょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

クローン人間

1996年7月5日、スコットランドのロスリン研究所で「ドリー」は生まれました。

アメリカの巨乳歌手ドリー・バートンにちなんで名づけられた彼女は、見かけは普通のメスの羊でした。ただ1つ決定的に異なるのは、世界で初めての「クローン動物」だったことです。

人の染色体の数は46個あります。もし精子や卵子の中の染色体の数も46個だとすると、精子と卵子が受精したら染色体の数は92個になってしまいます。そこで精子や卵子をつくるときに染色体の数を半分に減らします。これを「減数分裂」といいます。精子の染色体の数は23個、卵子も23個、受精して46個、もとに戻るのです。

このとき受精卵は父親と母親の両方の遺伝子を半分ずつもらうのです。これによってさまざまな遺伝子をもった子どもが生まれます。これを「種の多様性」といいます。

受精卵は細胞分裂で倍々に増えて人体を形づくりますが、このとき遺伝子は正確にコピーされるので、体中の細胞の遺伝子はすべて同じ、生まれたときから死ぬまですべて同じです。細胞分裂するうちに遺伝子が勝手に変化することはないのです。

あなたが独裁者だったら不老不死の命が欲しいでしょう。しかし命には限りがあります。それなら自分とまったく同じ遺伝子をもった自分そっくりな子どもが欲しい。もしそう思ったらクローン人間をつくらなければなりません。遺伝子染色体は「核」の中に入っています。卵子の核には23個の染色体が入っていますがその核を取り除きます。そこにあなたの体細胞から取り出した核を入れます。中には46個の染色体が入っていますので受精卵と同じ状態になります。これを誰かの子宮の中に戻せばあなたと同じ遺伝子をもった子どもが生まれるのです。

ドリーはこうやって生まれました。絶滅しそうなトキの数を増やすときや、優秀な遺伝子をもった動物を保存するのにいいかもしれません。あなたが心臓や肺の移植が必要になったときクローン人間をつくってその臓器をもらえば同じ遺伝子なのですから拒絶反応は起きません。しかしクローンで生まれた子どもにも人権があります。

クローン人間が封印されている理由は、人間のあくなき欲望を抑えることが困難だからです。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

自家組織法

ちなみに羊の平均寿命は10~12歳ですが、クローン羊のドリーは6歳で死にました。

ドリーを作るために体細胞の核を取り出した羊の年齢も6歳だったのです。

私たちの遺伝子は複製酵素によって永遠に正確にコピーされますが、DNAのはじっこのテロメアの複製酵素は生まれたときに失活して(働かなくなって)、それ以降テロメアは細胞分裂するたびにすり減っていくとお話ししましたね。

ドリーの親の体細胞のテロメアも6年分すり減っていたのです。そのため残りの6年しか生きられなかったのでしょう(これには諸説あります)。つまりあなたのクローン人間をつくろうと思ってもあなたが高齢なら、あなたの遺伝子のテロメアもそう長くは残っていないということです。

自分と同じ遺伝子の組織をもらえないとすると、他人の組織をもらえないかということになりますが、これは拒絶反応が起こります。あなたの身体は自分以外のものが侵入してくるのを拒否して攻撃するのです。

となると自分の身体の一部を移植するしかありません。手の指を事故で失ったとき、足の指を手の血管につないで移植する方法があります。手の指が戻ったかわりに足の指は失われるのです。

乳房を失ったときも、背中やおなかの皮膚と皮下脂肪を取ってきて移植します。当然背中やおなかには傷がつきます。血のめぐりが悪いと全部がつかないときもあります。そこで血のめぐりを維持するために背中やおなかの筋肉を同時に移植します。これを筋皮弁といいます。筋肉と皮膚を弁状(ひらひらした花びら状)にするのでこう呼ばれています。

または皮膚や皮下脂肪に行く血管ごと取り出して、胸の血管とつなぎます。顕微鏡で見ながら血管同士をつなぎ合わせるのでマイクロサージャリー(顕微鏡手術)と呼ばれるこの技術によって、成功率は飛躍的に高くなりました。

きちんとつけばこっちのものです。つくった乳房は、さわり心地は自然で温かく、あなたがやせればやせるでしょうし、年をとれば多少垂れるでしょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

脂肪細胞移植

15年ぐらい前に脂肪注入法という豊胸術がはやりました。おなかや脚の脂肪を吸引して、その中の生きのいい脂肪細胞を胸に注入するのです。「余分な脂肪が取れて胸が大きくなるので一挙両得」といって宣伝されていました。

しかし私たちの身体で血のめぐりが悪くても生着(生きてつくこと)するのは軟骨ですが、血のめぐりが悪いと生着しにくいのは脂肪なのです。

脂肪を注入して半年もすると半分ぐらい吸収されます。1年すると2割しか残らないでしょう。その2割も生きているわけではありません。脂肪壊死といって死んでかたまりになっているのです。死んだタンパク質は化石になります。そのため5年もすると石灰化といってマンモグラフィで砂粒のように写ります。そのため一部の美容外科以外はやらなくなりました。

しかし「余分な脂肪が取れて胸が大きくなる」のは全女性の夢です。その夢を追いかけている形成外科医たちがいます。彼らは吸引した脂肪の中に幹細胞が豊富に含まれていることに目をつけて、幹細胞と脂肪細胞を一緒に注入することを始めたのです。

幹細胞はあらゆる細胞に分化する可能性をもった細胞です。神経や心臓のように子どものときに細胞分裂が終了して、大人になって傷ついても細胞分裂しない組織があります。こうした組織の損傷、たとえば脊髄損傷や心筋梗塞に幹細胞を注射することによって組織が再生することが期待されています。

彼らの幹細胞は注入後、乳腺細胞に分化するわけではありませんが、脂肪細胞が生着しやすいように新しい血管をつくってくれるといとわれています。そのため脂肪幹細胞移植は従来よりもよくつくようになったそうです。それでも全部がつくわけではありませんし、1回に注入できる量にも限りがあります。

興味がある方は一度相談してみて、その効果と可能性の限界についてよく説明を受けてください。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

シリコンインプラントの寿命

近年、日本車のリコールがよく報道されています。これまで日本の車には安全神話があり、それを支えていたのは科学を駆使した最新テクノロジーと徹底した品質管理です。しかし車も人間が作ったものですから絶対に壊れないということはいえません。命あるものが必ず死ぬように、形あるものは必ず壊れるのです。また人それぞれ寿命が異なるように車ごとに部品ごとに寿命は異なります。どんなに安全な車でも毎年の車検を行い、異常が発見されたら交換が必要です。

乳房インプラントをはじめ眼内レンズや人工関節、心臓の人工弁といった人工臓器も人体に用いられる永久埋没材料ですから、安全な材質が用いられています。また品質管理においても厳しい耐久性試験を経たものが出荷されています。メーカーは自社の製品がいかに安全で耐久性にすぐれているかデータを提示しています。しかし私はメーカーの説明をうのみにせずに、すべての患者さんに検診を推奨してきました。 その結果わかったことは、たとえ数年でも破損はありうる、しかしその確率は低い、たとえ破損があってもインプラントは非吸収性・低刺激性の素材なので検診さえ受けていれば周囲にしみ込むことはほとんどないということです。

「私のインプラントはあと何年もちますか」と、よく聞かれます。今使われているシリコンは最新式のものですので、まだ長い歴史はありません。平均寿命のことでしたら、これから何十年も検診を続け、すべてのインプラントが破損した時点で平均値を出さなければなりません。それではいつになるかわかりません。5年破損率なら出せます。5年たったときに、どれくらいのインプラントが破損しているかです。あるメーカーの調査では、最初の3年間は破損が見られなかった、それからは年に1%の破損が発見されたといいます。それなら、5年破損率は2%でしょう。10年ごとに交換しないといけないという医学的報告は一度もありませんのでご安心を。

再建手術や豊胸手術を受けた方から、よく「術後やってはいけないことは何か」と聞かれます。確かにスポーツで強い衝撃を与えたり、うつぶせでマッサージしたりすることはインプラントに負担をかけるでしょう。しかしよりよい人生を得るために手術をしたのですから、行動に制限を加えるべきではないと思っています。

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著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

被膜拘縮

真珠貝の中に石粒が迷い込むと、真珠貝は異物から身を守ろうとして粘液を出して、貝殻の内側と同じ保護膜を作ります。これが「真珠」と呼ばれます。真珠膜がどんどんできる貝は元気な貝ということです。 まったく同じようにシリコン(正確には乳房インプラントといいます)が身体に入ったとき傷あと組織による被う膜、被膜ができます。被膜が広くてインプラントが小さければ自由に動き回れるので軟らかな乳房ができます。ちょうど被膜という壁紙に被われた快適な部屋ができたようなものです。

しかし被膜が狭くて大きなインプラントが入っていると硬くなります。拘えられて縮むと書いて拘縮、被膜拘縮といいます。

広い被膜を作るために筋肉の下をどんなに大きくはがしても、人間の身体はどんどん傷を治そうとしますので、回復力、創傷治癒能力が高いほど、被膜はどんどん狭くなっていきます。そこで拘縮を防ぐために以下の工夫がされています。

ざらざらしたインプラントを使う…インプラントには表面がつるつるしたスムースタイプと、ざらざらしたテクスチャードタイプがあります。テクスチャードタイプのほうが表面積が広いので、被膜も広くなります。広いお部屋ができるので硬くなりにくいのです。

マッサージをする…手術直後からマッサージでインプラントを動かしてはがしたところがくっつかないようにします。スムースタイプのときは有効です。しかしテクスチャードタイプはざらざらして摩擦が多いので通常マッサージはしません。また同時再建のときは乳腺を取ったあとの皮膚と筋肉がくっつくまでマッサージはしないほうがいいでしょう。

組織拡張器を入れる…エキスパンダーというシリコン製の風船を入れて、ときどき水を注入しながら皮膚を伸ばします。半年かけて大きな被膜ができたら、適当な大きさに入れかえます。ただし2回の手術が必要ですから、経済的、肉体的、時間的負担が倍増します。何よりふくらましているときはかなり人目を引くでしょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

乳房再建一回法

妊娠すると十月十日の間におなかの皮膚と筋肉はどんどん引き伸ばされます。普通だったら裂けてしまうと思うでしょうが、おなかの筋肉はハンモックのように交差した網目になっています。腹直筋も真ん中が観音開きのように開いて減圧になります。その結果、筋肉は無傷のままあそこまで伸びるのです。

妊娠線のことを「皮膚線条」といいます。思春期のときに急に太るとできる「肥満線」、授乳のときにできる「授乳線」も皮膚線条のひとつです。あれは皮下脂肪が急激に増加して皮膚との間にずれが生じた結果で、太らなければできないのです。それが証拠に豊胸術では胸の筋肉の下にいきなり600ccものインプラントを入れることがありますが、皮膚線条は生じません。

全摘で皮膚を大きく切り取ったら、皮膚が足りなくなります。

背中やおなかから皮膚や脂肪や筋肉を移植すると、自家組織を採取したところに大きな傷ができます。

そこで風船状の組織拡張器を挿入して、半年かけて皮膚が伸びたところでインプラントに入れかえれば、垂れた乳房が形成できるのではないかと期待されてきました。私も22年間その夢を追い続けてきましたがそれは幻想だったのです。

妊娠であれだけ長期にわたって極度に引き伸ばされても、出産後は速やかにもとに戻るように、組織拡張器を抜いたあとは速やかに平らになります。丸いインプラントを入れればお椀を伏せたような丸い乳房しかできませんでした。最近はアナトミカルというとがったインプラントもありますが、組織拡張器で大きい部屋をつくったあとにこれを入れると、回転してしまうのです。

皮下乳腺全摘術のように皮膚が全部残されているときは、そんなに皮膚を引き伸ばす必要はありません。そこで反対側の乳房と同じ大きさ、形のアナトミカルのインプラントを用意して、組織拡張器を使わずに1回で入れてみました。そしたらみごとにそっくりになったのです。これを一期再建(通称、一回法)といいます。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

乳房温存に乳房再建を併用するべきか

乳房温存を希望したところ、「乳房を4分の1取って、その欠損に背中の皮下脂肪を入れようといわれた」という話をよく聞きます。

乳房温存術の局所再発率は放射線をかけなければ39%もあります。ということは39%以上の確率でがん細胞が残っているということです。放射線をかけることによって局所再発率は14%まで減少しますが、それでも全摘の3~6%にくらべれば明らかに高いのです。にもかかわらず温存が許されているのは生存率(つまり寿命)が変わらないことと、再建せずに乳房形態が保たれるからです。

もし乳房温存をしても再建が必要だといわれたら、むしろ皮下乳腺全摘(皮膚を残して乳腺を全摘する)をして再建をしたほうが将来の局所再発も少なく、広背筋とシリコンインプラントのどちらでもきれいに再建できるでしょう。

もしそれでも温存にこだわるなら、まずは小さく取ってみたらどうでしょう。

今は針生検やマンモトーム(マンモグラフィや超音波で観察しながら組織を取る検査)でしこりの一部を取ってがんの診断をしていますが、昔は外科生検といって怪しいところを手術で取ってがんの診断や広がりを調べたものです(私の年がばれてしまう)。

ですから外科生検のつもりで小さく取ってみて、もし取り切れていればそのまま放射線をかければいいし、取り切れていないとき(断端陽性という)や変形があるときは皮下乳腺全摘同時再建をしてはいかがでしょう。

温存して同時に再建をして、あとから取り切れていないとわかったときには追加手術が必要です。または取り切れていても局所再発の予防のために放射線をかけなければなりません。もしその後局所再発したときには全摘が必要です。再建した自家組織はまったく無駄になってしまいます。

温存は小さな切除できちっと取り切れて変形をきたさないときに限って行うべきです。

再建が必要な温存に存在価値はありません。

皮下乳腺全摘同時再建をおすすめする理由#shorts #ナグモ先生 #ナグモクリニック

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

健側乳房の修正

昔は家の中に囲炉裏がありました。赤ん坊がはいはいするようになると、頭が重いものですから囲炉裏につっこんで、顔半分をやけどすることもありました。

そんな子はいつも顔半分を髪の毛で隠して育ちます。しかし30~40代になるころには、赤く硬く盛り上がっていたやけどあとが、白く軟らかく平らになって、化粧をするとほとんどわからないくらいになるのです。

そのうち50代になると、健康な側の頬はブルドッグのように垂れ下がってくるのですが、やけどした側は張りがあるため、左右非対称になります。このときやけどした側を垂れさせることはありません。垂れた側を吊り上げるのが普通です。

乳房再建も左右対称な乳房をつくることが目的です。しかし再建した乳房は皮膚が足りないことが多いので垂れることはありません。このとき健側(健康な側のこと)の乳房が理想的なお椀型ならいいのですが、そうとばかりは限りません。そのときは健側乳房の修正が必要です。

健側が小さいとき…再建側は皮下脂肪も取られているので、あばら骨が透けて見えませんか。そんなとき小さなシリコンを入れても上のほうのあばら骨を隠すことはできないのです。もちろん反対側をいじりたくないときは絶対に豊胸してはいけません。しかし、もともと小さい乳房がコンプレックスで大きくしたいと思っていたなら、これがいいチャンスです。再建と同時に健側の豊胸も受けましょう。左右対称の乳房ができることでしょう。さらに年をとっても左右差が出にくいのです。

健側が垂れているとき…おなかの脂肪を移植する自家組織で、垂れた乳房をつくってご満悦の形成外科医もいますが、センスを疑います。垂れた乳房をブラで吊り上げるのは肩がこってたまらないでしょう。そのときは余った皮膚を取って、乳頭の位置を吊り上げるのです。

健側が大きすぎるとき…再建側に大きなシリコンを入れるのも違和感があって大変です。そんなときは健側の乳房の脂肪や乳腺を取って、小さくして治すのです。

左右対称は乳房を再建するためには、再建側だけの努力だけでなく、健康な側からの歩み寄りも必要なのです。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

再建乳房と豊胸術

あなたに赤ちゃんが生まれたとき。

生まれたばかりの赤ちゃんはしわくちゃでおじいさんのような顔をしています。目も腫れ上がって真っ赤な顔をしてただ泣いているので、はたから見たらお猿さんです。それでもあなたはそのかわいらしさに感動することでしょう。

やがて大きく育ってくると、口答えはする、ものはこぼす、言うことは聞かない、他人に迷惑をかける……。いらいらすることもあるでしょう。

さて、あなたが乳房再建を受けたとき。

手術が終わって病室で初めて再建乳房を見たとき、あなたは平らな胸がふくらんでいることに感動するでしょう。ところが家に帰ってよく見てみると、再建した皮膚はまだ十分に伸び切っていないため、押しつぶされたような形をしているので、だんだん不安になってきます。

特に、あなたが乳房再建と豊胸術を同時に受けたとき。

豊胸術の側は軟らかく動きもあって、きれいで申し分ありません。しかし再建の側は違和感もあって傷の引きつれも完全に伸び切っていなくて、さわり心地もまだ硬く不安になることでしょう。しかしそれは酷というものです。

もしあなたが2人の子どもを授かったと思ってください。

お兄ちゃんは成長が遅く、身体も弱いけど、心はやさしい。弟はやんちゃで乱暴者だけど、元気いっぱい。そんなときどちらがすぐれているか優劣をつけますか。どちらもあなたにとってかけがえのない子どもです。それぞれのよいところをほめてあげれば、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに、弟は弟なりにすくすくと育っていくでしょう。

同じように再建と豊胸では出発点が異なるのです。再建した側が自然になるのには時間がかかります。手術直後が仕上がりではなく、半年、1年後を見越して手術をしているのです。豊胸したほうばかりほめないで、再建したほうもほめてあげてください。子どもがほめられて育つように、再建した乳房も豊胸した乳房も、毎日なでてあげながら「いい子いい子、きれいになってきたね」とほめてあげると、どんどん自然になって、あなたにとってかけがえのないパートナーとなることでしょう。

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