■乳がん・乳房再建コラム

乳がん・乳房再建コラム(乳がんの治療法の選択)

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

エビデンスは誰のもの?

最近よく使われるこの言葉は「科学的根拠」という意味です。これまでの治療は医師の個人的知識や経験をもとに行われてきました。そのため医師によって治療方針が異なることが患者にとっては悩みの種だったのです。

そこでその治療法をした場合としなかった場合、またはその治療法とほかの治療法によって、その後の経過に違いがあるかどうか比較試験をするようになりました。がんでいえば生存率すなわち寿命や、局所再発率に違いがあるかどうかを科学的に調べたのです。それによって得られた根拠がエビデンスです。エビデンスの信頼度は臨床試験の方法によっても異なります。その試験に参加する患者の数が多いほど、またどの治療を受けるのかくじ引きで決めたほうが、信頼度が高くなります。

乳がんは手術や放射線、抗がん剤やホルモン療法などさまざまな治療法がよく効くために、これまで多くの臨床研究が行われ、次のようなことが明らかになってきました。

大きく取っても(全摘)小さく取っても(温存)生存率は変わらない・・・ただし局所再発率は全摘が3%に対し、温存は放射線療法をかけないと39%、かけても14%と高い。

リンパ節を取っても取らなくても生存率は変わらない・・・ただし術後の補助療法(抗がん剤やホルモン療法)を決めるためにはリンパ節転移の有無を調べることは不可欠ですし、転移があるときは取ったほうが局所再発率は低いのです。

再建をしてもしなくても生存率・局所再発率は変わらない。

放射線をかけると局所再発率が3分の1に減少する・・・さらにリンパ節転移が4個以上あるとき放射線照射すると、乳房温存術では7%、全摘では5%生存率が高くなる。

抗がん剤やホルモン療法をすると生存率がそれぞれ3分の1向上する・・・併用すれば2分の1向上します。

エビデンスはこれまで医師の個人的知識や経験をもとに行われてきた医療を、公平・公正かつ最新な医療に転換するために導入されました。にもかかわらず、最近の医師はエビデンスを盾に、治療法を強要するようになってきました。

すべてを医師にまかせるのではなく、きちんとエビデンスを理解したうえで、主治医と治療法を選ぶようにしましょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

情報の氾濫、そんなときどうするか?

子どもはすごいですね。ネイティブスピーカーと話していれば自然とその発音が身体にしみ込みますし、すばらしいアスリートとスポーツをしていれば反射的に身体が動くようになります。すばらしいミュージシャンと演奏していれば、自然に手が奏でるようになります。これが「からだ記憶」です。一度、覚えると生涯忘れません。

ところが大人になって語学、スポーツ、音楽、コンピュータを習得しようと思っても、難しくてなかなか覚えられません。老化のせいだといわれますが、実は頭がじゃまをしているのです。記憶は思春期を境に「あたま記憶」が優性になるのです。

大人になってからパソコンやピアノを始めた方は、手元を見ないとキーボードをたたけないでしょう。実は私もそうです。今この原稿を書くのに人の倍の苦労をしています。頭で考えながらそれを文章にしていく、それを指が文字にして、目でキーボードと画面を交互に確認する。なんと多くの作業でしょうか。

しかし目を閉じてキーボードをたたいてみると意外にスムーズにいくものです。そのほかの情報が一切シャットアウトされて、心と指が一体になっているからです。音楽もそういうものでしょう。楽譜と鍵盤を交互に見ながらではたどたどしくなってしまいます。頭をからっぽに心を全開にして、感性に身をゆだねればいいのです。

さて乳がんと診断されたとき、手に入るかぎりの情報を集めるでしょう。友人たちもさまざまな情報を与えてくれます。最初は手術と抗がん剤しかないと思っていたのですが、免疫療法や民間療法などの情報や体験談を聞くたびに、決心が揺らぎどうしていいかわからなくなってしまいます。氾濫した情報の波にのまれてしまっているのです。

考えようとすればするほど複雑になって行動に移すことができません。そういうときは目をつぶって頭をからっぽにしてください。そして自分がどうしたいのかイメージしてみるのです。たいてい方針は決まっているものです。自分の意見を支持してほしいだけなのです。医師に遠慮なくあなたの希望を伝えてみてください。医師はパートナーとしてその実現の手伝いをしてくれるでしょう。

ただし語学や音楽、スポーツでもいいパートナーを選ばないと上達しません。乳がんの治療の際もよい主治医をお選びください。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

治療法と主治医は自分で選べ!

今日、乳がんの手術は非常に進歩して、全摘・温存ばかりでなく皮下乳腺全摘・同時再建もあります。また放射線療法、補助療法(抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬)の組み合わせによって根治性が高まりました。

同時にそれぞれの治療法の長所と短所も明らかになりつつあります。どの方法が最善かは人によって異なります。あなたは自分の価値観に照らし合わせて、自分にとって最善な治療法の選択と、そのための主治医の選択をしなければなりません。

がんと診断されてから治療法を決定するまで次のような手順が必要です。

  1. がんの告知・・・検査・診断ののち、主治医から病名の告知を受けます。
  2. インフォームドコンセント・・・主治医から治療法についての説明を受けます。
  3. セカンドオピニオン・・・希望するときは主治医にセカンドオピニオンを受けたいと伝えます。
  4. 診療情報提供・・・セカンドオピニオンに必要な診療情報を提供してもらいます。
  5. セカンドオピニオンを受ける・・・診療情報をもってほかの医師の意見を聞きます。
  6. 治療法および医師の選択・・・複数の医師の意見をもとに、治療法と治療医を選択します。

主治医から乳がんと告知されたが、とてもショックでそのあとの説明がまったく理解できなかった、ということもよく聞きます。確かに真実を知るのはつらいことです。しかしがん告知は医師と患者さんが真実を共有することによって、生涯にわたる信頼関係を築き、最善の治療を提供し続けるためにあるのです。ぜひあなた自身が病名と病状、そして治療法の説明を受けてください。

ただし、聞き漏らしがないように以下のような工夫も必要です。

  • あなたの質問の要点を箇条書きにしてまとめておきましょう。
  • ちゃんと質問ができるか不安なときは家族か友人に一緒に行ってもらいましょう。
  • そのときは説明内容のメモを取るかコピーをもらって、自宅で読み返しましょう。
  • 新たな疑問が生じたときはメモをしておいて、次回の診察時に必ず質問しましょう。
  • メールやファクスでも質問ができないか聞いてみましょう。
  • 説明を理解・納得できないときは、もう一度わかりやすく説明してもらいましょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

インフォームドコンセント

年をとると新しい歌はなかなか覚えられないけど、古い歌は歌詞カードを見なくても歌えます。同じように横文字はなかなか覚えられず、出てくるのは子どものころに覚えた日本語ばかり。タートルネックはとっくり、ハンガーは衣紋掛け、ビーチサンダルは海浜履き、ベビーカーは乳母車・・・・・・。

戦時中、英語は敵性語と見なされ使用を禁止されました。野球でもストライクを「よし」、アウトを「だめ」と呼ばせました。そこまでいくとやりすぎですが、医療においてやたら横文字を使う習慣は慎むべきだと思います。

そこでセカンドオピニオンは「第二の医師の意見」、QOLは「生活の質」「人生の質」、EBMは「科学的根拠に基づいた医療」と呼ぶことが提案されています。しかしなかなか定着しません。

だってそうでしょ、日本の医療にはそういう下地がないのですから。外人に「武士道」とか「もったいない」とか「肩こり」といっても通じないのです。そういう精神や概念がないのですから。きっと彼らも最初は彼らの言葉に翻訳を試みたはずです。しかしどうしてもしっくりこない。そこで今は「モッタイナーイ」と使っています。

さてがんの告知が行われても、病状に関する十分な情報が得られなければ患者さんの不安は増すばかりです。そこで生まれたのがインフォームドコンセントです。直訳すれば「説明のうえでの同意」。医師はあなたの病状、これからの治療法の利点や欠点、ほかの治療法について説明してあなたの同意を求めます。しかし医師の説明に患者が単に同意するというのでは、一方通行的な印象がぬぐえません。

実際の診療において最も不足しているのは患者さんからの情報です。乳がん治療の選択肢は多岐にわたり、患者さんの価値観も一人ひとり異なります。家族構成、結婚観、妊娠の希望、仕事、趣味、将来の計画、人生観、死生観を話すことによって、医師はあなたに最も合った治療法を提示してくれるでしょう。

真のインフォームドコンセントは医師と患者さんの双方が互いの情報を提供し、合意に至るというインタラクティブな(双方向の)行為であるべきです。そこで私は「双方の説明のうえでの合意」と訳しています。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

セカンドオピニオンとは

主治医の意見「ファーストオピニオン」に対し、主治医以外の意見を「セカンドオピニオン」といいます。セカンドオピニオンには次のような利点があります。

  • 多くの情報が得られる。
  • 異なる医師の異なった意見が聞ける。
  • 異なる診療科の異なった治療法を知ることができる。
  • 主治医の診断・治療方針に誤りがないか確認できる。
  • 診断・治療について複数の専門医間で検討してもらうことができる。
  • 自分に最も合った治療法および治療医を選ぶことができる。
  • 患者さんには困難な専門的交渉を、もう一方の医師に代行してもらうことができる。
  • 手術は遠隔地の名医にしてもらい、術後検診や抗がん剤の処方は地元の医師に頼む(地域を超えた医療連携)ことができる。
  • 手術・放射線・抗がん剤治療のそれぞれを、異なる施設の外科医、放射線科医、腫瘍内科医に分担してもらう(診療科の枠を超えた医療連携)ことができる。

セカンドオピニオンを希望するときは、主治医に次のように相談しましょう。

  • セカンドオピニオンを受けたいときには協力していただけますか?
  • この病院に帰ってきたときは再び受け入れていただけますか?
  • 病理結果(細胞診や組織診)のコピーと今の説明のコピーをいただけますか?
  • 治療方針の決定に有用な検査結果やX線写真を貸していただけますか?

もし、あなたの主治医がセカンドオピニオンに協力しないならば、あなたの生涯の主治医にふさわしくありません。新たな主治医を探しましょう。

セカンドオピニオン医には次のことを聞きましょう。

  • (病理のコピーやX線写真を渡して)前の病院の診断に誤りはありませんか?
  • この治療法を勧められましたが、先生ならどの方法を勧めますか?
  • (前の医師と意見が異なる場合)それはなぜですか?科学的根拠を教えてください。
  • 主治医に意見書(または報告書)を書いていただけますか?
  • 先生の治療を希望したときは受け入れていただけますか?

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

情けは人のためならず

この諺は「人に親切にして甘やかすのは、その人のためにならない」の意味で使われることがありますが、本当の意味は「人に親切にしておけば、相手のためになるばかりでなく、やがてはよい報いとなって自分に戻ってくる」ということです。

病院は待ち時間が長いですね。以前、所属していた大学病院では、朝診察券を出しても順番が回ってくるのが午後。最悪、夜の9時まで患者さんを待たせることもありました。

私のクリニックは完全予約制で、医師も飲まず食わずで働いているのですが、それでも1~2時間お待たせすることがあります。

そこで、その時間を有意義に過ごすにはどうしたらよいか考えました。

病院にいちばん欠けていることは、患者同士の交流、支え合い、情報交換です。

家族はあなたに助かってほしいという気持ちが先行して、「温存なんて考えず、ずばっと全部取ってもらえ」とか「命あっての物種、再建なんかしなくてもいい」と、あなたの望まない治療法を勧めることがあり、あなたを悩ませます。

そんなとき、乳がん体験者の意見を聞くことはとても大切です。患者会に参加することをお勧めします。乳がんをすでに治療した人がみずからの経験に基づいてさまざまな疑問に答えてくれます。また悩みを共有する友人を得ることができます。ただ雑談をするだけでも、有意義な時間を過ごすことができるでしょう。

乳がんをすでに克服した人たちの経験は、あなたのこれから歩む道に希望の光をともしてくれます。手術は痛いのか、再建は違和感があるのか、抗がん剤は苦しいのか、放射線やホルモン療法はどんな副作用があるのか、などなど。実際の体験者の声を聞けたらどんなに心強いでしょう。

そしてあなたの経験も、将来同じ道を歩んでくる人にとって希望の光となるのです。

あなたの経験を1人の暗い過去としてしまい込まず、100人の明るい未来に変えてください。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

入院や手術をせかされたら

釣り船に乗ったことはありますか。釣り場に到着すると漁師さんが「撒き餌」をします。それは動物愛護のためではありません。魚をおびき寄せるためです。そしてひとたび細工にかかったら、なんとか釣り落とさないようにします。もちろん、釣った魚に餌は与えません。

外科医も同じです。手術する前は親切です。これは撤き餌です。そして患者をよその病院に取られないようにあの手この手を使います。

針生検の結果、乳がんと診断され手術をためらっていると「早く手術しないと針を刺したところからがん細胞が身体中に回るよ!」と主治医が脅かします。しかし乳がん国際ガイドラインはこう報告しています。細胞診や針生検をしたことによってがん細胞がばらまかれたという報告はない。主治医もそんなことは百も承知。入院や手術を急がせるのは、患者からセカンドオピニオン(ほかの医師の意見)を受ける機会を奪って、ほかの病院に逃がさないためです。

「がんです。一刻も早く手術しましょう。明日入院してください」というのも、同じ理由です。乳がんができるのに数年かかっているのに、緊急入院する必要はありません。

「入院して遠隔転移や、がんの広がりの検査をしましょう」。これも巧妙な策略です。

術前検査は入院しなくてもできるはずです。

「手術法は、入院してからお話しします」。というのも、外来で都合の悪いことをいうと逃げられてしまうので、まず入院させようとしているのです。

病理の結果をコピーしてくれないのもよそに行かせないための嫌がらせです。

乳がんに携わる医師は、自分の腕で患者を救ってあげたいという情熱があります。また自分の病院はよそにひけとらないという自負があります。その気持ちが患者をよそに逃がさないシステムを作ってしまうのです。

あなたがセカンドオピニオンを希望するときは、診療情報提供書(紹介状)を依頼してみましょう。もし親切に協力してくれないようなら、術後はもっと不親切になるでしょう。「釣った魚に餌はやらない」からです。

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