■乳がん・乳房再建コラム

乳がん・乳房再建コラム(再発の発見)

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

月とホルモンの関係

テロメアの理論で、タバコを吸った人が咽頭がんや肺がんに、ウイルスや細菌に感染した人が子宮頸がんや胃がんになるのはよくわかりました。でも「私は太ってもいないし暴飲暴食もしない。むしろ身体には人一倍気をつけているのにどうして乳がんになったのでしょうか」と腑に落ちない人もいるでしょう。

それではクイズを1つ。狼男は満月の夜に変身します。なぜでしょう。

太古の昔、地球上のあらゆる生物は海に住んでいました。海には卵や子どもを襲う敵が多くいました。そこで陸地に上がって産卵をするようになりました。とはいえ海から陸地に上がるのは大変。そこで満月に目をつけました。満月のとき月は太陽と真反対に位置します。両方の引力が重なり合って「大潮」となり、水位が最も高くなります。つまり陸地に上がりやすくなるのです。そのため今でも地球上の多くの生物は満月のときに発情するのです。ヒトの月経も月の周期とほぼ一致しています。

月経をつかさどる女性ホルモンには2つあります。1つはエストロゲン。語源はエストラス(発情)で、「女らしさホルモン」です。排卵直前に分泌され、フェロモンを出して異性を引きつけます。また乳管(母乳を運ぶ管)上皮の増殖にかかわっています。

もう1つはプロゲステロン。語源はプロジェニー(繁殖)で、「母親らしさホルモン」です。小葉(母乳をつくる部分)を増殖します。月経前にバストが張って痛くなるのも、このせいです。

女性ホルモンは乳管や小葉を増殖させますので、月経のたびに上皮細胞が分裂増殖してテロメアが短くなり、がん細胞ができやすくなるのです。さらに乳がんも、乳腺と同様に女性ホルモンを栄養にして発育します。つまり女性ホルモンは発がん物質でもあり、がんの促進物質でもあるのです。

昔の女性は栄養状態が悪かったので初潮が遅く閉経が早く、しかも早婚で多産でした。
妊娠・授乳中は月経がないので、女性ホルモンを分泌している期間が短かったのです。
そのためがん細胞の発生・発育が少なかった。
しかし最近の女性は初潮が早く閉経が遅く、未婚・晩婚・少子化で、長い間月経が規則正しくあるので乳がんが多くなったのです。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

閉経後乳がん

わが国の乳がんの好発年齢は40・50代。閉経後は女性ホルモンがなくなるので乳がんになりにくくなります。ところが欧米では閉経後の乳がんが増えています。なんと日本人の5倍。男性の前立腺がんも5倍です。なぜでしょう。

人種の問題でしょうか。違います。アメリカに住んでいれば白人でも黒人でも黄色人種でもみんな乳がんになりやすくなるのです。そうです、「生活習慣」です。

閉経後、卵巣からの女性ホルモンにかわって、副腎(腎臓の上にくっついている小さな組織)からアンドロゲンという男性ホルモンが出ます。閉経すると身体がオヤジ化するのです。

先ほど地球上の生き物の中で人類だけが生殖年齢終了後も長生きする、その理由は子育てのためだといいました。子育てのためには授乳機能の維持が必要です。しかし閉経後は女性ホルモンがなくなって乳房はしぼみます。そこで、乳腺の中に「アロマターゼ」という転換酵素ができて、副腎から出たアンドロゲンをエストロゲンという女性ホルモンに転換し、乳房の大きさを維持したのです。

皮肉なことに、女性ホルモンは乳がんにとっても栄養となります。アンドロゲンが多く分泌される環境では、閉経後の乳がんが増えているのです。

ではどんな環境でアンドロゲンの分泌量が増えるのでしょうか。
1つにはアンドロゲンの材料となる血中のコレステロール値が高くなったときです。

コレステロールは細胞や血管やホルモンをつくる大切な栄養素です。そのためコレステロールを多く含む肉や乳製品を控えても、その量は常に一定になるように調節されています。血中のコレステロール値が高くなるのは生活習慣によって身体の細胞が傷ついているときです。

精製した糖質や悪い油は血管や細胞を傷つけます。それを修復するためにコレステロール値が高くなるのです。

2つ目にはストレスです。ご主人の看病や、ご両親の介護は大変なストレスです。それと闘うために「闘争ホルモン」であるアンドロゲンが大量に分泌されます。アンドロゲンは転換酵素のアロマターゼによってエストロゲンに転換されるのです。看病や介護が一段落してふと胸に手をやったときにしこりに気づくのです。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

術後の検診の目的

「乳がんの術後、主治医は毎月の検診を勧めますが、ほとんど胸を見てもらったことはなく、血液検査やX線検査が流れ作業のようにあるだけです」という相談がありました。

遠隔転移の検査をいくらしても遠隔転移を減らせるわけではありません。ただし遠隔転移を早期発見・早期治療すれば生存率(寿命)が向上するかもしれません。

そこで大がかりな臨床試験が行われました。その結果、骨シンチグラフィ、肝臓の超音波検查・CT、肺のX線・CT、脳のCT・MRI、腫瘍マーカーからなる遠隔転移発見の検査をしても、生存率やQOL(生活の質)は向上しないことが明らかになりました。

そのため乳がん国際ガイドラインでは「遠隔転移発見の検査は避けるべきである」と勧告しています。

主治医に聞いてみてください。
「この検査の目的は遠隔転移の発見ですか?」。そうですと答えるでしょう。
「遠隔転移は早期発見しても根治が不可能だというのは本当ですか?」。そうですと答えるでしょう。
「ということは遠隔転移の検査をしてもしなくても生存率は変わらないのですね?」。
これもそうですと答えるでしょう。
「それなら遠隔転移の検査を受けなくてもいいですか?」。主治医がなんと答えるかが楽しみです。

では、術後の通院の目的はなんでしょう。それは局所再発と対側の乳がんの発見です。

局所再発率は全摘術ならば3%、放射線をかけた乳房温存療法ならば14%あります。
対側乳房の発がん率は年0.75%と決して多くはありませんが、通常の約3倍ですので検査が必要です。

つまり胸を見ないで、遠隔転移の検査ばかりするのは意味がありません。また毎月のように検査をしていては逆に忙しすぎてゆっくり見る時間がないのではないでしょうか。

乳がん・乳房再建コラム
乳がん治療・乳房再建
乳がんの診断
乳がんの病期(ステージ)
乳がんの手術法
リンパ節の郭清
非浸潤がんの治療
乳房再建
乳がんの治療法の選択
治療からの復帰(乳がんの術後)
補助療法
再発の発見
リンパ浮腫
転移性乳がんの治療
このページの先頭へ